2020年4月から「同一労働同一賃金制度」が適用される。正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じる制度だ。ユーザー企業のIT部門で働く派遣技術者が、正社員であるIT部員と同じ仕事をしているのなら、給与面などでの格差は許されなくなる。
直感的には、IT部門ならびに技術者を送り出しているITベンダーはかなりやばいんじゃないのと思う。多くのIT部門はITコストを引き下げる目的でシステムの保守運用をITベンダーに丸投げしているからだ。しかも定期的に人月料金の引き下げを強要する企業もあり、ITベンダーの常駐技術者の給与はIT部員の半分などというひどい例さえある。
だが、ユーザー企業側からもITベンダー側からも「やばい!」との声は今のところ上がっていない。考えてみれば当たり前で、ユーザー企業のIT部門からすれば、そもそもIT部員はITベンダーの常駐技術者と同じ仕事をしていない。技術者を送り出しているITベンダーにしても、派遣契約ではなく準委任契約なら問題ないとの認識だろう。
多くのIT部門はかつてあれほど「システムは作ってからが本番、だからシステム開発より保守運用のほうが重要」などと主張していたにもかかわらず、今やその重要な業務をITベンダーに丸投げしてしまっている。IT部員たちはベンダーマネジメントと称して、常駐技術者からのExcelベースの業務報告書を見て「フォントが違う」などと指摘する「より高度な」仕事を担っている。
ITベンダーはそんなIT部門から多くの場合、準委任契約の一種であるSES(システム・エンジニアリング・サービス)契約でシステムの保守運用業務を引き受けている。技術者が客の企業の非正規社員となる派遣契約と違って、SES契約(あるいは請負契約)ならITベンダーが引き受けた業務を自社の社員に担わせているため、客のIT部員の給与水準に合わせる必要はない。
しかも人月商売のIT業界には多重下請け構造という、客の要求に柔軟に対応できる便利な仕組みがある。元請けのSIerだと自社の技術者のほうが、客のIT部員より高給なケースもあるから、システムの保守運用を低料金では引き受けられない。そこでSIerも下請けITベンダーに丸投げして、低料金で保守運用の実務を引き受けさせる。
かくしてユーザー企業のIT部員の半分の給与で、ITベンダーの常駐技術者を働かせるといったような離れ業が可能になる。しかも同一労働同一賃金制度など一切気にしなくてよい。めでたしめでたし、である。しかし、これっていろんな意味でとんでもない話だと思うぞ。人を安月給でこき使うことで運用コストを削減するという「野蛮な風習」を、IT部門やITベンダーの関係者は恥ずかしく思わないのだろうか。
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