中国経済が深刻な状況に追い込まれてきた。経営再建中の中国不動産開発大手「中国恒大集団」は17日、
米連邦破産法15条の適用をニューヨーク連邦破産裁判所に申請した。
ー中略ー
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中国経済が変調をきたしている。7月の消費者物価は前年同月比で0・3%下落し、内需の強さを示す指標の1つである輸入も、
同じく前年比12・4%減少した。不動産バブルが崩壊して以来、いよいよ本格的な景気後退とデフレが始まったようだ。
多くのエコノミストは「ゼロコロナ政策の終了でV字型回復」を予想したが、それが完全に間違っていたどころか、
いまだに間違えた理由もよく説明できていない。
そんななか、新型コロナ政策の暴走によって、
「中国の国民が共産党と政府に対する信頼を完全に失ったことが、景気失速の本当の理由だ」とする論文が8月2日付で
米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」に登場した。
論文は「国民の信頼失墜は政府のマクロ経済政策を無効化し、それによって経済は一段と不安定化する一方、
財政政策を乱発すれば、政府の債務問題は、さらに深刻化する」とも予想している。
筆者は、ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン会長である。
同氏は英中央銀行・金融政策委員会の外部投票メンバーなども務めた有識者だ。
「中国経済の奇跡の終焉(しゅうえん)」というタイトルが問題の深刻さを物語っている。
一体、ポーゼン氏は何を指摘したのか。
問題の核心は、習近平政権の新型コロナ政策にある。習政権は厳格な都市のロックダウン(封鎖)を断行したが、
それによって、国民は何カ月にもわたって外出を禁じられ、生活の糧を失う人々が続出した。
飲食店など零細事業者は、やむなく事業を閉じざるを得ず、倒産した。
ところが、昨年11月に人々が白紙を掲げて抗議する「白紙革命」の運動が全国に広がると、
習政権は一転して、ゼロコロナの終了を宣言し、一挙に感染者が激増したのは、ご存じの通りだ。
ポーゼン氏は、右から左へ極端に揺れ動く政策を目の当たりにして「多くの中国人が党と政府を信用しなくなった」。
その結果、人々は「自分の身を守るのは自分しかない」と理解して、自動車や耐久消費財、不動産といった資産の購入を控え、
ひたすら貯蓄に励むようになった。「過剰な貯蓄と過小な投資こそが、中国経済停滞の真因」と指摘している。
私は、一読して「目からウロコ」の思いがした。
7月14日発行の本コラムで指摘したが、昨年から中国を「脱走」して、米国への不法入国を試みる中国人が激増している。
中国を逃げ出せない中国人たちは、貯蓄するしか「身を守る術」がないのだ。
かつては、「政治に口を出さなければ、暮らしは保証される」という暗黙の了解があった。
ところが、新型コロナ政策は「共産党こそが生殺与奪の権を握っている」と国民に知らしめてしまった。
その結果、政府が財政支出を拡大しようが、金利を引き下げようが、人々は反応しなくなった。
信頼できないからだ。そうなると、政府は景気調節手段を失い、経済はますます不安定化する。
中国の国家統計局は15日、若者(16歳から24歳)の失業率の発表を停止してしまった。
まさに、「都合の悪い数字がなければ、問題はない」という姿勢なのだ。これが、いまの中国である。
ポーゼン氏は「中国人は、ますます海外資産に逃亡する」とも指摘している。
日本は、中国人や中国系企業による不動産の購入を制限する防衛策が急務だ。
■長谷川幸洋
夕刊フジ 2023.8/19 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20230819-TM3E2XZPINPIBITO67L5MXFJ4M/