これ思い出す

〈(前略)東京都板橋区高島平(たかしまだいら)の団地の高層建物から、合板会社の工員、山中了(さとる)さんと、長男の小学校四年生、敏弘君(九つ)、次男の同一年生、正人君(六つ)が、飛び降り自殺をした。父親は二人の子を抱きかかえるようにして死んだ。父親は妻に蒸発され、まじめに働いていたが、子どもの世話で「疲れた」といっていたという。父親のズボンのポケットには一〇円銅貨が一枚残っていただけであったということが、背後の事情をものがたっていた。こどもの手帳には、
「おかあさん、ぼくたちが天国からおかあさんのことをうらむ。おかあさんもじ国(地獄)へ行け、敏弘、正人」
と書いてあったという。(後略)〉